ジェームズ=W=ビュエルの1887年の著作『海と陸』からインパクトのある一枚の絵を紹介しよう。
異様なほど長いハサミを持った巨大ガニが漁師を襲っている。正に海のモンスターだ。
このカニの正体は何なのか?そして、この絵が伝える物語とは?
正体は「タカアシガニ」
まずはネタバレから。上の絵のキャプションがこちら。

出典 同上
“JAPANESE SPIDER CRAB”
そう、タカアシガニです。
はて?
タカアシガニといえば、水族館で水底を眠くなりそうなほどゆっくりと歩いている姿がお馴染みである。モンスターのイメージなど全くないのだが?
殺人ガニ(?)の話
それでは、上の絵に添えられたショートストーリーを見てみよう。
日本でこのカニを採集していたウォード教授は次のように述べている。「彼らは夜になると、恐らくエサを取るために水から出て川岸を這い上がるという驚くべき習性を持っている。そして、カニハンターたちの格好(かっこう)の獲物となるのだ」。
伝えられている話では、漁師仲間が川岸で野営をしたとき、夜に一人が叫び声を上げて仲間を起こしたそうだ。駆けつけてみると、さまよっていた一匹の怪物ガニが偶然その巨大なハサミで漁師の上に這い登っており、彼を死ぬほど怯(おび)えさせていたのだった。
―上掲書『海と陸』の本文より
なるほど、怪物ガニは漁師を恐怖させているが、襲ったり攻撃したりはしていない。上の絵は明らかな誇張(こちょう)だ。読者の目を引き付けるために派手な絵を描いたのだろう。Youtubeのサムネイルなどで良く使われる手口だ。
それにしても、タカアシガニが夜に川岸を這い上がるという話は本当なのか?調べた限りでは、基本的に深海の海底に生息するカニだし、産卵期には浅い海にもやってくるが水深50メートル程度のところだ。
どうもこの話自体が事実とは思えない。一種の怪談と考えた方がいいだろう。
おわりに
というわけで、殺人ガニなど存在しないのである。
殺人ガニというなら、人の死体を食べるというヤシガニの方がまだ相応しいと思う。
